2015年7月12日日曜日

東雅夫さんの[朗読幻奏4]推薦文と作品解説


 今年もまた、「音ノ刃」の夏がやってきた。
 スガダイロー、日比谷カタン、そしてコンセプト・メイカーである福原千鶴というトリオが、誰も聴いたことも視たこともない朗読と演奏の文学魔界を、ステージ上に幻成させる季節──今年は、ユニット名の命名者である京極夏彦がふたたび参加して、もはや伝説と化したファースト・ステージの興奮が再現されることになりそうだ。
 なにしろ演目からして今回は尋常ではない。京極による話題の新作『鬼談』の巻頭に収められた稀代の怪作「鬼交」と、文豪・泉鏡花の初期傑作「化鳥」という、およそ1世紀を隔てて相対峙する異形の独白体小説のカップリングである。
 キイワードは……「混淆」だろうか。夢と現実(うつつ)が、人と人ならざるもの(魔物であれ禽獣であれ翼の生えた美女であれ)とが、思うさま混じり合うことの陶酔と、隠微な官能と。ぜひ御一緒に、融け合いましょうぞ。
     
東 雅夫(文芸評論家/アンソロジスト)


【化鳥解説】
文豪・泉鏡花が1897年4月、「新著月刊」第1号に発表した短篇小説。作者の故地・金沢の浅野川周辺を舞台に描かれる、無垢な少年の目に映じる卑俗な人間たち、蠱惑的な自然、天啓のごとく到来する有翼の佳人……時代に先駆けた一人称独白体小説として近年、再注目されている小傑作。国書刊行会から『絵本 化鳥』(中川学・絵)も発売中。

【鬼交解説】
京極夏彦が2000年2月、競作集『エロティシズム12幻想』に発表した短篇小説。淫夢魔(インクブス/スクブス)の伝承をベースに、睡眠中の女性を襲う得体の知れぬモノの恐怖と魅惑を、変幻自在な一人称独白体で描き、衝撃を与えた異色作である。最新の短篇集『鬼談』(KADOKAWA)の巻頭に収録。